こんにちは!エンタメ領域のDXを推進するブロックチェーンスタートアップ、GaudiyでプロデューサーをしているRyosuke(@RNmlc1)です。
プロダクト開発において「UXリサーチ」を実施している企業は多いと思いますが、Gaudiyでもユーザー中心のプロダクト開発を進めるため、積極的に取り入れています。
なかでも、N1でユーザーのメンタルモデルを深掘る「デプスインタビュー」をよく実施しており、プロデューサーとデザイナーが中心となって取り組むことも多いです。
前回のTech Blogでは主にフィールドリサーチをご紹介しましたが、本エントリでは、デプスインタビュー実践のコツや、どのようにインサイトを作り出しているかについて詳しくお伝えしてみます。
ユーザーインタビューってどうやるの? ユーザーインタビューしてはいるけど、うまくインサイトが導き出せない…といった課題感のある方に、ご参考になると嬉しいです!
- なぜユーザーインタビューを大事にしてるのか
- デプスインタビューの全体プロセス
- 1. メンタルモデルの仮説を元にしたインタビュー設計
- 2. インタビューの実施
- 3. 個々のインタビュー記録に、メンタルモデルの解釈を加えて整理
- 4. すべてのインタビューをまとめ、ペルソナを分類
- 5. ペルソナごとにユーザーインサイトを作り出し、モデリングで可視化
- さいごに
なぜユーザーインタビューを大事にしてるのか
はじめに、なぜGaudiyではユーザーインタビューを大事にしているかについて、簡単にご説明します。
Gaudiyが開発・提供するファンコミュニティサービスは、マンガ、アニメ、ゲーム、アイドル、スポーツなど様々なエンタメ領域のIP(知的財産)を扱っていますが、当然ながら、そのIPごとにユーザーの属性が全く異なる独自の文化圏が存在します。
そうしたユーザーの方々に、GaudiyのバリューのひとつでもあるFandom(ファンを喜ばせる体験)を届けるためには、どういう属性のユーザーが、普段どんな活動をどういう感情で行っているのかを理解しておく必要があります。
そこでGaudiyでは、ユーザーの「メンタルモデル(※)」から良質なインサイトを抽出し、プロダクトや企画の方向性を決定していくことを大事にしており、そのための「ユーザーインタビュー」をよく実施しています。
※メンタルモデル…認知心理学の用語で、人間が無自覚のうちに持っている認識と行動のパターンのこと。
ユーザーインタビューは、「探索」か「検証」の目的によって大きく2つに分類され、それぞれに様々な手法が存在しますが、Gaudiyでは、N1でより深いインサイトを得られる「デプスインタビュー」を実施する場合が多いです。
そこで今回は、マンガアプリ「GANMA!」さんとの共同プロジェクト「GANMA!コミュニティ」におけるデプスインタビューを例示しながら、Gaudiyで普段どのようにユーザーインタビューを設計、実施し、インサイトを抽出しているのか、その具体的なプロセスをご紹介できればと思います。
デプスインタビューの全体プロセス
今回は、GANMA!コミュニティを利用しているユーザーの方5名を対象に、それぞれ約1時間ほどデプスインタビューを実施しました。
インタビュイーの選出については、コミュニティの利用頻度や、普段の活動内容など、さまざまな軸で異なるタイプの方々にお声がけし、ご協力いただきました。
デプスインタビューの設計・実施から、インサイト抽出までの一連のプロセスは以下になります。
- メンタルモデルの仮説を元にしたインタビュー設計
- インタビューの実施
- 個々のインタビュー記録に、メンタルモデルの解釈を加えて整理
- すべてのインタビューをまとめ、ペルソナを分類
- ペルソナごとにユーザーインサイトを作り出し、モデリングで可視化
それでは、各プロセスにおいてどのように実施しているのか、具体的な方法とそのポイントを次からご紹介していきます。
1. メンタルモデルの仮説を元にしたインタビュー設計
まずは、インタビュー対象のユーザーさん(以下、ユーザー)のメンタルモデルを考慮した質問項目を設計します。
具体的には、普段のコミュニティ活動やTwitterなどのSNS上での活動をリサーチし、ユーザーの特徴的な発言や行動を拾います。
これらを元に「このユーザーはこういう発言をしているから、こんなメンタルモデルを持っているんじゃないか」といった仮説を話し合いながら、質問を設計していきます。
実際のインタビューの設計手順としては以下です。
- インタビュー対象ユーザーの、コミュニティ(プロダクト)での活動や、TwitterなどSNS上での活動をリサーチする
- ユーザーが普段どういう活動しているかを付箋で挙げていき、いくつかのトピックを抽出する
- ユーザーの言動から仮説を立て、インタビューで掘りたい箇所に見当をつける
- 仮説に関する質問を列挙し、トピックに紐づけて整理する
- 自分たちが聞きたい質問を追加する
- それらをシーケンスに並べる(会話が連続しそうな順番、関連性を意識する)
このように、事前に対象ユーザーのメンタルモデルの仮説を立て、インタビューでどこを掘るべきかの見当をつけておくことが大事です。一方で、実際のインタビューでは質問シーケンスは参考程度に留め、会話の流れに合わせて質問の順番や内容を変えています。
2. インタビューの実施
事前準備ができたら、インタビューの実施です。ここでは、インタビューにおいて気をつけているポイントを4つほどご紹介します。
2-1. 相手との「ラポール形成」を大事にする
信頼関係が築かれている状態のことを心理学の用語で「ラポール形成」と呼びますが、インタビューにおいても相手とのラポール形成は重要です。
相手の感性に対して興味・共感を示すことで、ユーザーが自分の話に興味を持ってくれていると感じることができ、より深いストーリーを聞き出すことができます。
ここでのコツとしては2つあって、ひとつは「尋問形式にならない」ということ。淡々と質問をしていくと尋問のようになり、ユーザーが心地よく発言することが難しくなってしまいます。結果的に、本来のメンタルモデルを引き出せない、という失敗にもつながってしまうので注意が必要です。
2つめに「インタビューの設計段階で盛り上がるポイントを作っておく」ということ。設計段階の洗い出して多くでた質問項目は、ユーザーにとっても中心の活動である場合が多く、発言しやすいポイントになります。こうしたポイントを把握し、そのための質問や話題を用意しておくことで、インタビュー中の盛り上がりを作りやすくなります。
2-2. ひとつの話題を深く掘り下げ「メンタルモデル」を探る
話の表層だけをすくわないことが大切です。ユーザーが「〇〇するのが楽しい」と言ったとき、〇〇がその人にとってどういう活動、どういう意味を持つのか。ここが重要なメンタルモデルになります。
これを引き出すためには、このメンタルモデルの解釈ができるまで一次返信で終わらせず、ひとつのトピックについて掘り下げる、枠を広げることが重要です。
その掘り下げのコツとしては、以下があります。
- 具体的なエピソードを聞いて、過去の描写を引き出す(メンタルモデルは過去の体験によって構築されるため)
- どのように? どう思ったか? を繰り返し尋ねて、その時の状況や感情を掘り下げる
2-3. 解釈の確認と、その反応から掘るべきポイントを見極める
話を掘り下げていき、ある程度見えてきたら、次に「〜ということですかね」とメンタルモデルの解釈を相手に当ててみます。
ここで重要なのが、この時の相手のリアクションを見て、その解釈が正しいかどうか、つまり掘るべきポイントなのかどうかを見極めることです。
たとえば、解釈を確認する質問に対して、ユーザーの返答が「たしかに〜」と続いた場合、これは元々ユーザーの考えにないリアクションなので、その解釈は外れている場合が多いです。
反対に、「そうそれ!」などテンションが明らかにあがった場合などは、メンタルモデルの解釈が正しかった時の特徴のひとつです。この場合は、このリアクションの後に出てくるワードがキーワードになる可能性が大きいです。
このように解釈の確認を挟みながら、それが正しければ深掘るべきポイントになり、それが正しくなければ別の路線に方向転換します。基本的には、「ひとつの話題を掘り下げる→解釈をぶつける→深堀り or 方向転換」を繰り返していくことになります。
2-4. 先入観が入った質問やワードをださない
聞き手の先入観が入った言葉を用いると、間違った方向にユーザーの答えを誘導してしまいます。正確なメンタルモデルを掘るためには、自分の先入観を取り除くことが重要です。
そのためには、自分たちが使う専門用語などは控え、普段ユーザーが使っているワードにインタビュアーが合わせるなどの工夫も大切です。
3. 個々のインタビュー記録に、メンタルモデルの解釈を加えて整理
インタビューを終えたら、記録を整理して、解釈を加えていきます。
インタビューの記録においては、ユーザーの発言に加えて、相手のリアクションや、聞き手の解釈も合わせて記録することが大事です。
文化人類学では「Thick Description(厚い記述)」という言葉もありますが、インタビュー中は、ユーザーが発していた言葉や反応をそのまま記述するだけでなく、なぜそのように行ったのか、根拠や背景、メンタルモデルの解釈も合わせて記録していきます。
次に、ユーザーの発言やメンタルモデルの解釈を視覚的に整理していきます。
Gaudiyでは、ホワイトボードツールのmiroを活用して、発言の解釈や重要なポイントを、インタビュー出席者で話し合いながら整理していきます。基本的には「KJ法」のような方法でグルーピングしたり、「この時にこういう行動をとる」など実際の行動フローをストーリーでまとめたりしています。
4. すべてのインタビューをまとめ、ペルソナを分類
こうして、全員分のインタビューが終わり、それぞれの情報を整理した上で、ペルソナを分類します。
インタビューで出てきたキーワードをもとに、どういう活動の軸があったかを話し合いながら、属性の分析や、ユーザーのグルーピングを進めていきます。
GANMA!コミュニティでは、対象ユーザー5名の共通点や違いなどを抜き出し、その特徴や関係性を整理していくと、大きく3つのペルソナに分類されました。
5. ペルソナごとにユーザーインサイトを作り出し、モデリングで可視化
さいごに、3つのペルソナのまとめとして「共感マップ」を作成します。
このモデリングを行うフェーズでは、以下のようなプロセスで思考しています。
- メンタルモデルを表す言動を中心に、断片的な個々の情報からインサイトを作り出す
- インサイトのロジックが通るかを検証するため、具体的なファクト(ユーザーの実際の言動)で裏付けを取りに行く
- 重要なインサイトを中心にモデリングでまとめる
共感マップは、ペルソナの視点での感情・行動や、ペイン・ゲインなどをマップ化して整理したものです。可視化しておくことで、ペルソナのニーズ把握に役立ちます。
また他にも、「文化モデル(Cultual Model)」というモデリング手法を活用する場合もあります。
文化モデルは、インタビューで登場した人物やコト、モノに対する、対象ユーザーのメンタルモデルや、それぞれがどのように影響しあっているかの関係性を可視化するものです。
今回ご紹介した共感マップや文化モデルの他にも、メンタルモデル・ダイアグラムやKA法など、様々なモデリング手法が存在するので、目的に応じて選択すると良いと思います。
また近年、海外を中心にReseachOpsの概念が広まっていますが、 GaudiyでもUXリサーチレポジトリ構築の一環として、モデリングで可視化されたユーザーインサイトをNotionにストックしていくという運用も始めています。
さいごに
今回はGANMA!コミュニティの事例をもとに、ユーザーインタビューとインサイト抽出について、具体的なプロセスや手法をご紹介させていただきました。
GaudiyではこうしたUXリサーチをもとに、プロダクト設計のフェーズから、ビジネス、エンジニア、デザイナーなどの関係者全員がコラボレーションし、UX起点で開発を進めているので、この辺りはまた追ってお伝えできたらと思います。
Gaudiyでは、今回ご紹介したユーザーインタビュー以外にも、目的やフェーズに応じて様々なUXリサーチを実践しています。UXリサーチやユーザー中心のプロダクト開発にご興味のある方はぜひお話ししましょう〜!
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