Gaudiy Tech Blog

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クリエイターに還元し続けるNFTの流通を考えてみた

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こんにちは。エンタメ領域のDXを推進するブロックチェーンスタートアップ、Gaudiyでエンジニアをしているkei(@kei32bit)です。

突然ですが、みなさんはNFTをご存知でしょうか? 聞いたことがある人や、中には実際にNFTを売買したことがある人もいるかもしれません。

Gaudiyでは、トークンエコノミーの実現に向けて、ブロックチェーンを活用したファンコミュニティサービスを開発していますが、その中で電子書籍やトレカ、チケットなどに「NFT」を活用しています。

今回は、そのNFTの売買、特に二次流通における課題と解決策をテーマに、リサーチした内容と私の考えをご紹介したいと思います。

本記事で取り扱う内容は以下です。

  • NFTの流通プロセスとロイヤリティという概念
  • クリエイターに永続的に報酬が入る仕組みは作れるのか?
  • ロイヤリティに関する課題とその解決策

本記事を読む前にNFTをキャッチアップしたい方は、日本総研が出しているレポートをご一読いただくのをおすすめします。

NFT(Non-Fungible Token)に関する動向

テックブログではありますが、コードを読まなくても理解いただける構成を心がけたので非エンジニアの方にも読んでいただきたいです。

1. NFTの流通プロセスとロイヤリティ

最初に、NFTの売買や流通の仕組みについて簡単にご紹介します。

NFTは、基本的には「NFTマーケットプレイス」と呼ばれる取引所で売ったり買ったりすることができます。

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NFTの取引の流れとブロックチェーン
ref. NFT(Non-Fungible Token)に関する動向 p4

例えば、有名なものだとNBA TOPSHOTが挙げられます。バスケのプレー名場面を収録した動画コンテンツの売買ができる取引所です。

https://i.gyazo.com/0631b3ccafae952bdf95d7010090c957.gif

上記であげたNBA TOPSHOTは、NFTコンテンツ作者から直接購入できる「一次流通」のマーケットプレイスです。

これに対して、一次流通で売買したNFTコンテンツが売買されることを「二次流通」と呼びます。

イメージとしては、中古品の販売に近いです。コンテンツ作者から購入するのではなく、既に購入した人からNFTを購入する取引で「転売」と言われることもあります。

有名どころだとOpenSeaやRaribleが二次流通の機能を持ったマーケットプレイスとして該当します。

※厳密にはOpenSeaもRaribleも認定クリエイターとしてNFTコンテンツ作者が登録できるので、その人達と売買する場合は一次流通となります。なのでOpenSeaは一次流通と二次流通の機能を持ち合わせたNFTマーケットプレイスと言えます。

https://opensea.io/

Rarible – Create, sell or collect digital items secured with #blockchain

また、二次流通の手数料のことを「ロイヤリティ」といいます。NFTのユニークな機能のひとつで、上図の赤枠で囲んだ部分を設計することで得られる収益です。

NFTコンテンツ作者はもちろん、NFT購入者も自身がNFT販売者の立場になる際はロイヤリティ配布対象になり得ます。

ロイヤリティがあると、二次流通以降の取引でも継続的にNFTコンテンツ作者(+NFT購入者にも)に収益が入るので、NFTコンテンツの取引の活発化にむけたインセンティブになります。

例えばメルカリのようなプラットフォームで書籍を売っても本の作者には1円も入りませんが、NFT化した電子書籍コンテンツであれば、二次流通(転売)するたびにロイヤリティが作者に入ります。

2. クリエイターに永続的に報酬が入る仕組みをどう作るか?

NFTコンテンツを売買するとき、おそらく多くの方は、前述したNFTマーケットプレイスで取引するはずです。

大手のNFTマーケットプレイスでは、二次流通におけるロイヤリティを自身で設定することができます。例えば大手取引所のひとつRaribleでの具体的なロイヤリティ設定は以下です。

  • Raribleで取引されるNFTコンテンツに関しては10%のロイヤリティが設定できる
  • NFTコンテンツがRaribleで二次流通(転売)される場合も転売される度に10%のロイヤリティが作者に入る

しかし現状、RaribleとOpenseaといったNFTマーケットプレイス間でのロイヤリティの配布はできないので、別の取引所でユーザーが出品してしまうとNFTコンテンツの作者にはロイヤリティが入りません。

同じようなことは個人間売買にも言えます。作者にロイヤリティを払うと自分の取り分が減ってしまうため、この流れは想定できます。

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二次流通をRarible以外の場所で行ったケース

このように、ロイヤリティを付与する/しないがユーザーに委ねられてしまうので強制力が働きません。これはユーザーがロイヤリティを設定するというUXに委ねられているのが原因です。

なので視点を変えて、アプリケーションレイヤーでの解決策ではなく、もう一つ下のプロトコルレイヤーでの解決策を深堀りしていきたいと思います。

NFT取引所ごとではなくデフォルトのNFT機能としてロイヤリティの仕組みを持たせたい

ひとつ下のレイヤー層でロイヤリティ機能を入れられたら、NFTマーケットプレイスごとに独自実装しなくて良いですよね。

結論から言うと、Ethereumというブロックチェーン上ではこの機能を提案する議論がされています。(提案のステータスがドラフト段階ではなく、最終段階のステータスになっているのでおそらく標準実装として入ると思ってます。)

また、Ethereum以外のチェーンだとNEARというブロックチェーンでもロイヤリティを配布する機能が実装がされているので、こちらも合わせて紹介したいと思います。

※レイヤーについての補足・・・ブロックチェーンには大きく分けてアプリケーションレイヤーとプロトコルレイヤーがあります。ブロックチェーンの機能として担保できるものが後者です。NFTマーケットプレイスはアプリケーションレイヤーにあたります。

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ブロックチェーンにおけるアプリケーションレイヤーとプロトコルレイヤー
ref. https://www.fsa.go.jp/policy/bgin/ResearchPaper_MRI_ja.pdf

Ethereumにおけるロイヤリティ実装

Ethereumがもっているロイヤリティ機能の要約です。

  • 複数人に対して異なるパーセンテージでロイヤリティを配布できる(ex. NFTコンテンツの売上金のXX%はロイヤリティとして作者Aに、YY%は作者Bに対して支払われる)
  • ロイヤリティ機能が実装されたNFTコンテンツであればどこのNFTマーケットプレイス OR 個人売買でもロイヤリティが作者に配布される

github.com

複数人で作った共同作品を出品した場合、各々が異なるロイヤリティ額を受け取れる設計にできます。著作権の帰属先が複数ある場合などに使えそうです。

実際のサンプルプロジェクトを日本人の方が作成されていたので紹介させていただきます。 バーチャル空間で使えるNFTコンテンツを販売するマーケットプレイスのようです。ここで買ったNFTコンテンツは以後、転売する場合に作者のもとに一定のパーセンテージでロイヤリティが入る設計になっているとのことです。(詳細はこちらのnoteの記事が参考になります)

github.com

NEARにおけるロイヤリティ実装の仕組み

NEARというブロックチェーンでもEthereumと同様にロイヤリティを実装できます。 ロイヤリティ機能もEthereumとほぼ同じです。

Ethereumと異なるのはロイヤリティをパーセンテージではなく、額指定(単位は$NEAR)という点です。個人的にはNEARの価値が上下した際に一定額のロイヤリティ配布だと柔軟性がないようにも感じました。

具体的なNEARのロイヤルティ実装のインターフェイスは以下になります。

github.com

EthreumとNEARの両方の課題

ロイヤリティが配布されるタイミングですが、厳密にはNFTの売買するタイミングではなく、NFTが転送されたタイミングです。 問題はこのNFTの転送が行われたタイミングが「NFTの売買」なのか「NFTの移管」なのか区別ができない点です。

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NFTの売買と移管はどちらも転送なので区別がつかない

本来の売買のタイミング以外でロイヤリティが過剰に発生してしまう課題に対しては今後方針を決めるようです。

One more reasonable approach MAY use the number of transfers of an NFT to decide which percentage value is used to calculate the royaltyAmount. The idea being that the percentage value could decrease after each transfer of the NFT. Another example could be using a different percentage value for each unique _tokenId.

Ethereumでは一つの提案として転送回数ごとにロイヤリティのパーセンテージを減らす、というアプローチ方法を挙げています。

3. さいごに

NFTコンテンツ作成者も購入者もお互いに取引したくなるようなインセンティブ設計していく上で、ロイヤリティの仕組みをどう扱っていくかが個人的には鍵になってくると思います。

本記事を読んでいただいて、NFT自体の本質的な価値などに興味が湧いた方は弊社CEOの石川が書いた記事がわかりやすいのでぜひこちらもご一読してみてください。

note.com

Gaudiyでは流通プロセスに関わる人全員がNFTコンテンツを扱いたくなるような世界を実現しようとしています。

自分は一年くらい前までブロックチェーンのことは何一つ知らないソフトウェアエンジニアでしたが、Gaudiyに入ってブロックチェーンの思想をチームで議論したり、最新の技術動向を教え合ったりしてこの世界にのめり込むようになりました。

少しでも興味を持っていただけたエンジニアの方は、ぜひTwitteri(@kei32bit)やMeetyなどお気軽にご連絡ください。

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